本研究で始めて、脊椎動物骨格筋の組織を対象に、Ca^<2+>濃度測定法を確立した。これは、膜透過性蛍光Ca^<2+>指示薬(Fura-2/AM)を取り込ませた前肢骨格筋Epitrochlearisにおいて、340nm励起時の500nm蛍光量および380nm励起時の500nm蛍光量を測定し、次にその比を算出し、これをCa^<2+>濃度の指標とする方法である。この方法を用い、強縮が生じないような軽度の筋収縮や各種薬理学的刺激が細胞内のCa^<2+>濃度に与える影響を観察した。強縮時にはアーチファクトが生じ、Ca^<2+>濃度測定できなかったが今後、さらに検討する予定である。 最近の研究により、筋収縮で増加する骨格筋の糖取り込み速度に、筋収縮により上昇するCa^<2+>濃度が影響を与える可能性が示唆されている。そこで、次に、この方法を用いてCa^<2+>濃度とラット骨格筋の糖取りこみ速度との関係を明らかにするために、インスリンや、強縮を生じさせないような軽度の低酸素暴露というような生理学的刺激や、Ca^<2+>濃度に影響を与えると考えられている薬理学的刺激がCa^<2+>濃度に与える影響を観察した。 その結果、低濃度のCaffeine(3mM)およびW-7(50μM)の投与、低酸素刺激により細胞質Ca^<2+>濃度が上昇することが、初めて実際に観察された。これらの刺激は同時に糖取りこみ速度を増加させることより、本研究で開発した細胞中Ca^<2+>濃度測定法が、筋収縮を生じさせない生理学的刺激による骨格筋の糖取りこみ速度増加機序の解明に有用であることが明らかとなった。 また、AMPkinaseを活性化させるAICARではCa^<2+>濃度は変化しなかった。この結果より、Ca^<2+>濃度上昇により糖取りこみが増加するという経路が、AMPkinaseより下流にないことが明らかになった。 またインキュベーション時間が20分を経過すると、インスリンによりCa^<2+>濃度が増加することが初めて明らかになった。今後、インスリンがCa^<2+>濃度に対する経時的影響などを、さらに詳細に研究することにより、インスリンが骨格筋のCa^<2+>濃度に与える影響や、それが糖取りこみ速度増加に対する関与の有無を明らかにでき、インスリンによる糖取りこみ速度増加の機序解明の一助になることが期待される。
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