研究概要 |
(1) 崩壊発生の引きがねとなる,浸透流の集中と浸透流から地表流・水みち流への転化の状況を把握するため,2つめ丘陵地,計5か所の谷頭部のパイプ出口で,雨量と流出量の連続観測を実施し,その転化の発生が降雨条件および谷頭部の地形・土壌特性に応じて系統的に異なる傾向を明らかにした.また,非降雨時におけるパイプ流出量逓減状況の差異と,各谷頭部の土壌・表層地質断面調査から,谷頭部の土中水保持機構を考察した.これは,昨年度の研究で詳細な崩壊分布図作成およびその統計的解析を通して明らかにした,崩壊発生の集中する地形的位置が地域的に異なるという事実を説明する一つの要因として重要な知見と考えられる.(2) 崩壊発生の素因を準備する一環となる,匍行成土層の移動・集積状況を,二次林に覆われた丘陵斜面の頂部から谷底に至る複数のベルトで実施した,土壌断面と植生構造の観察に基づいて検討した. (3)形態を異にする斜面上の各位置での土壌匍行強度(平均的移動速度)を野外で実測するための装置の開発と,それを用いた試験的観測に着手した.その経緯は,上記(2)の結果とあわせて,東北大学植物園利用研究成果発表会で発表した. (4) 上記(1)(2)と,昨年度研究の成果とを結びつけ,(a)表層崩壊発生の空間的・時間的頻度の差異が斜面上の位置により異なり,(b)それが斜面の形態的特性をもたらす一方で,(c)その頻度が時代により変化していて,(d)したがって斜面形特性から古(気候)水文環境の変遷を論じることが可能であることを指摘した.このうち(a)(b)(c)については日本地形学連合1998年度春季大会で,また(d)も含む内容については第3回地球陸域古水文国際会議で,それぞれ発表した. (5) 研究期間中に発生した顕著な斜面崩壊事例について緊急調査を実施し,本研究の視点からさらに深く検討するための基礎資料を集積した.その中間報告を日本地すべり学会機関誌に速報した.
|