研究課題
本研究では災害による被災者の精神健康状態、トラウマと外傷後ストレス障害(PTSD)、被災者の心のケアに関するガイドラインなどに焦点をあてながら、以下の問題を具体的に検討した。(1)北海道南西沖地震から4年3カ月後の被災者の精神健康状態についてGHQ28を用いて分析した結果、精神障害のおそれのあるハイリスク者は全対象者の57%で、一般成人を対象とする調査結果の14%を大きく上回っており、精神健康状態への悪影響が長期化していた。(2)阪神・淡路大震災と北海道南西沖地震から2年3カ月後の被災者の精神健康状態を比較したところ、前者のハイリスク者は72%、後者は68%であり、都市型災害であっても漁村型災害であっても共に高い比率であった。この結果は、コミュニティ全体を崩壊させ、深刻な喪失体験をもたらす「中心的災害」は長期間にわたって被災者の有病率が高いことを裏付けていた。(3)トラウマは単回性トラウマと反復性トラウマに分類される。前者は大震災などに一度だけ巻き込まれたような体験を意味し、後者は身体的暴力などを繰り返し受けた体験を意味している。このトラウマの違いは、その後に発症する単純性PTSDや複雑性PTSDに関連していることを考察した。ただし、PTSDの診断基準(DSM-IV)には課題が残されており、基準の表現や関連障害との位置づけが不明確であることを指摘した。(4)被災者や支援活動をするスタッフに発症する可能性のあるPTSDを予防するためにはディブリーフィングの実施が有効であると言われている。しかし、その効果については研究知見が分かれており、その理由として、各研究における統制群の有無や測定尺度の問題など、研究方法に関する諸問題があることを明らかにした。(5)災害への対応は4段階に大別することができる。平常時の段階は災害に対する具体的な対策を準備する段階である。災害時の段階は災害が発生したときに、災害対応計画に即して効果的に対処する段階である。災害後の段階は長期的な心のケア対策などを継続することにより、人生の再建を図る段階である。そして、フィードバックの段階は災害を体験することによって得られた貴重な教訓を生かすための段階であり、災害対応計画をより実践的で有効なものへと修正していく必要があることを考察した。
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