研究概要 |
平成10年度は前年度の準備作業を受け,実際に加速器からの低速重イオンビームを高温高密度プラズマ標的に通し,飛行時間法によるエネルギー損失測定,及び高分解能スペクトロメーターによる荷電状態分布測定を行った. まずタンデム加速器からのエネルギー180keV/u(=5MeV),ビーム電流1μA程度の^<28>Si^<4+>ビームを100MHz同軸共振器を用いたチョッパーに導入し,ビームのパルス化を行った.このパルスビームはLiHレーザープラズマ標的を通過後,マイクロチャンネルプレートを用いた時間検出器により測定された.各パルスの到達時刻からイオンのエネルギー損失を求めた.その結果,等価常温標的に比較して阻止能が3〜4倍に増大していることが確認された.この測定結果を用いて入射イオンの有効電荷を計算したところ,常温標的と比較して20〜30%ほど大きくなっていることが判明した. 一方,昨年と同様に225keV/uの^<16>O^<2+>イオンを加速してプラズマ標的を通過させた後,高分解能スペクトロメーターに入射させた.イオンは磁場により荷電状態毎に分析された後プラスチックシンチレーターと光電子倍増管から成る検出器に入射し,その強度比が測定された.その結果,荷電変換に良く用いられる常温炭素薄膜に比較して,荷電状態の分布が高荷電数側に大きくシフトしていることが分かった.この実験結果を受け,入射イオンの電離及び電子再結合に関する原子過程の断面積を用いて荷電変換のレート方程式を解き,荷電状態分布と平均荷電数を数値計算した.平均荷電数の計算結果は,誤差10%の範囲内で測定値と一致した, 以上の研究により,特に低速の重イオンビームに対しては,プラズマ中で阻止能に影響を与えるクーロン対数が増加することの他に,電子捕獲確率が下がるために有効電荷数が上昇し,これが阻止能増大の主な理由になっていることが判明した.
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