研究概要 |
海洋生物が生産する海水中の有機物動態の複雑なシステムを定量的に把握するためには、有機物の分解速度、あるいは年齢の測定と有機物の変化に関係する分解あるいは補食の過程を区別する必要がある。そこで短寿命放射性核種であるP-32,S-35,Be-7,Th-234,Pb-210の測定と限外ろ過による有機物の分子量分画、サイズ別のフィルターを用いた有機物の分別を組み合わせることにより、天然水中(海水および湖沼水)の高分子有機物、粒子状有機物、植物および動物プランクトンの間の有機物動態の時間スケールを明らかにするためのマルチトレーサー法の確立を目的とした。 (1)天然水中の短寿命放射性核種であるP-32(半減期λ:14.28日),Th-234(24.1日)およびPb-21(20.4年)を測定するための現場型の吸着ろ過システムを検討し、粒子態有機物を5つのサイズに分離できた。5つのサイズは500μm以上,500〜200,200〜20,20〜1.2,1.2μm以下である。 (2)放射性核種、特にP-32/P-33の測定は金沢大學低レベル放射能測定施設のβ線(Si detectorあるいはピコベータ)測定器によりバックグランドおよび測定試料の形状,妨害条件等については検討を行い、0.03cpmの極低バックグランドを得た。 (3)三陸沖、琵琶湖および駿河湾で,2000lの海水から粒子態有機物を分離し、P-32,Pb-210,Th-234について測定を行った。これらの放射性物質は主に小さい粒子の部分に検出された。 (4)海水中の容存有機物の濃縮は、限外ろ過装置を用いる方法により行った。分子量1000,10000および100000ダルトンの膜を用いて有機物の分離を行った。その結果、海水中には10000から100000ダルトンの高分子有機物が30から45%存在している。
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