研究概要 |
日本の冷温帯から暖温帯にかけて広く分布しているコナラ林は、現在人為的撹乱が減少し成長を続けているが、萌芽再生能力が低下していると思われ、これらの二次林の維持・管理が問題となっている。そこで、コナラ林成立の上限に近いと思われる、中国山地のコナラ林において、予測されている温暖化環境下での植生、生産力、機能量の動態予測を将来的目標とし、温度環境の異なるコナラ林三林分を対象に、それぞれの植生構造、及び現存量や物質循環量を明らかにすることによって、温度環境の違いによる差異の比較考察を行った。調査地はいずれも広島県内であり、吉和村のコナラ林(調査地A:標高700m,林齢60〜70年)、三次市のコナラ林(調査地B:標高300m,林齢60年前後)、竹原市のコナラ林(調査地C:標高70m,林齢40年前後)の中間温帯域から暖温帯域にかけて、異なる温度環境に生育する、現在人為的撹乱を受けていないコナラ三林分とした。この各調査区において、毎木調査による種組成、構造、現存量の推定や、実生の追跡調査、気温・地表温度、土壌含水率の測定を行い、現境境下での各林分の現状把握、また差異の比較を行った。3調査区とも最上層はコナラが占めているが、調査区Aではクリ、ミズナラが、調査区B、Cではアベマキが加わって構成されていた。調査区Aには冷温帯で生育するといわれるミズナラ、コハウチワカエデ、サワシバなどが存在し、調査区Cではアラカシ、ナワシログミ、ネズミモチといった暖温帯に生育する常緑樹やナラガシワがあらわれる。これらの分布の違いは、各調査区の温度環境の差によるところが大きいと思われる。調査区Aのコナラ、ミズナラ、調査区Bのコナラ、アベマキは現在高木層を形成しているが、低木層にはみられず実生もわずかであることから、このまま撹乱を受けなければ将来的に衰退していく可能性がある。
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