近年、地球温暖化が心配されているが、温暖化に伴う現在の森林生態系の地理的分布、更新速度・パターン及び生産力、構造や現存量などの動態予測に必要なデータは不足している。そこで、今後100年間で気温が2-4℃上昇すると仮定し、中間温帯域である中国山地から暖温帯域の瀬戸内沿岸部にかけて、温度環境が異なり現在人為的攪乱を受けていないコナラ林三林分を対象とし、植生構造、及び現存量や土壌炭素循環などの機能量などを各林分ぶ現状を把握するとともに、その温度環境の違いによる差異の比較考察を行い、温暖化環境下におけるコナラ林の動態予測を試みた。 現在中国山地の北限のコナラ林には他の調査地にはない冷温帯に生育する樹種が存在するが、温暖化によって生存できなくなる可能性がある。また今後も攪乱を受けない場合、コナラ林は維持されず、植生構造の大きな変化が予想された。また、土壌呼吸量は気温の上昇に伴い増加すると予測されたが、現存量や水分条件とも密接な関係があり、温暖化が起こると複雑な相互作用が働くと思われた。その結果、気温の上昇によって植生構造が大きく変化することが示唆され、今後も攪乱を受けない場合、中国山地のコナラ林は維持されず、新しい樹種も侵入しにくいため、ソヨゴなどの低木林に変化する可能性が推察された。 さらに、北限に位置する吉和村のコナラ林を例に、現環境下での光合成特性、生産力特性やその生産力を定量的に評価し、温暖化環境下での炭素収支の予測を試みた。その結果、このコナラ林の総生産、純生産、呼吸速度はそれぞれ、18.0、4.6、13.4 tC/ha・yrと推定され、野外で得られた光合成や分解過程の温度依存性を考慮した場合、上記のような植生の動態の下では、温暖化環境の進展によって、この森林が大気中のCO2の吸収体から放出体になる可能性が指摘された。
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