研究概要 |
我々はこれまで、水溶液の凍結時に化学反応が促進されることを見出し、その原因が氷粒界に溶質が濃縮されることによることを明らかにしてきた(N.Takenaka et al.,J.Phys.Chem.,100,13874-84(1996))。環境中に存在する水が相変化、例えば凍結、昇華、蒸発等、するとき、水に含まれていた汚染物質が通常とは違う変化を示すことが考えられる。そこで、我々は環境中で起こるこのような相変化の際の汚染物質の動態を野外測定と実験室実験の両面から調べた。 本学内で96から97年にかけて露を採取しその成分を調べたところ、アンモニウムと亜硝酸イオンが雨水中に比べて高いこと、この露を乾燥させたところほとんどのアンモニウム、亜硝酸イオンは消失することを見出した。亜硝酸アンモニウムの濃厚水溶液は不安定でN2とH2Oに分解することが知られてる。そこで、我々は自然の露や人工露、あるいは種々のイオンの組み合わせによるアンモニウム、亜硝酸イオン水溶液の蒸発実験を行い、露が蒸発する際には両イオンが気相中へ消散するだけでなく、反応してN2を生成する、即ち「脱窒過程」が進行していることを見出した。これは自然界における「化学的脱窒過程」の最初の発見である。これまで、種々の形態で大気中に放出される含窒素化合物は最終的には硝酸となって除去されると考えられてきたが、その考えに対して見直しが必要であることが明らかとなった。 凍結に関連する研究では、硫化物及びチオ硫酸イオンの過酸化水素による酸化反応が凍結により促進されることを明らかにした。この促進効果の原因と考えられる溶存物質の氷からの排除に伴う溶液側への濃縮過程について、氷界面付近を干渉計により光学的に直接測定することにより、粒界中への溶存物質への取りこみが反応促進に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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