研究概要 |
1. カドミウム(Cd)環境汚染による健康影響,とくに尿細管障害の進行・悪化の有無を知るために,富山県神通川流域Cd環境汚染地域住民を対象に,7年後の1998年に追跡の調査を行った.対象は,Cd汚染地域である婦負郡婦中町11集落に居住し,1991年時住民台帳に登録されていた52〜67歳の女性全住民122人である.対照は,非汚染地域である同町1集落の同年齢の女性全住民34人とした.早朝尿を採取し,尿中α_1-ミクログロブリン(Uα_1M),グルコース(UGlu)ほかを測定した.追跡できた住民はCd汚染地区100人,対照地区27人であった. 汚染地域住民のUα_1MとUGluは,初回時,追跡時ともに対照地区より有意に高値であった.7年後の排泄増加の程度は,汚染地区のほうが対照地区より大きく,加齢以外の因子による尿細管機能の低下が示唆された. 2. 尿細管機能異常による骨代謝障害の発生機序を明らかにするために,軽度から高度の尿細管機能異常を呈する男性35例,女性49例を対象に,10年間の骨量の変化と尿細管機能異常との関連を検討した.骨量の変化は,MD法による2指標(骨皮質比MCl,骨量ΣGS/D)により評価した.その結果,男女ともに尿細管機能異常が高度となるほど骨量は低下した.10年間の骨量の減少率は,男性ではMCI-5.4%,ΣGS/D-2.7%,女性では-11%,ΣGS/D-6%であり,女性は男性に比較して,骨量の減少速度は2倍速かった.骨量の減少の程度と尿細管機能異常の重症度との関連では,男性では重症となるほど減少率は大きくなり,10年間の観察においても,骨量の減少に尿細管機能障害の程度が関与していることが示唆された.一方,女性では尿細管障害の高度群(FEβ_2M≧30%)では,FEβ_2M<30%の群と比較し10年間の骨量減少率は小さい傾向にあった(有意差なし).高度群ではCcr43ml/minと腎機能の低下が顕著であり,骨代謝活性の抑制が示唆された.
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