研究概要 |
駿河湾・土佐湾および北太平洋東北沖から採取した深海生物を供試して人為起源物質の化学分析を実施し、以下のような研究成果を得た。 1)供試した全ての深海生物から有機塩素化合物と有機スズ化合物が検出され、この種の人為起源物質による汚染が、外洋の深海生態系にまで拡がっていることが明らかとなった。また、日本近海産の深海生物にはPCBsが最も高い濃度で残留しており、次いでDDTs>CHLs>HCHs>HCB>PCDFs>PCDDsの順であった。 2)沿岸と外洋の深海生物の間で人為起源物質の残留濃度を比較したところ、DDTsやヘキサクロロシクロヘキサン(HCHs)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)に関しては、顕著な濃度差は認められず、これら物質が日本沿岸から外洋まで均質に分布していることがわかった。一方、PCBsやクロルダン化合物(CHLs)、ブチルスズ化合物(BTs)の残留濃度は、駿河湾の深海生物で最も高く、外洋性ハダカイワシでは相対的に低値であった。 3)外洋のハダカイワシを対象とした調査から、有機塩素化合物の中でも分子量が大きく粒子吸着性の高いPCBsやDDTs、CHLsは深層に、揮発性が高く粒子吸着性の低いHCHsやHCBは表層付近に偏って分布することが示された。また、沿岸および外洋の深海生物から検出されたBTsはいずれも表層に偏った濃度分布を示し、表層への流入が続いていることがその要因と考えられた。よって今後も、BTsによる深海汚染は進行することが示唆された。 4)駿河湾における調査から、PCDDsやPCDFsは表層性の魚類よりも、深海に生息する堆積物食性の甲殻類に高蓄積していることが明らかとなった。また、日本近海の深海底は、ダイオキシン類など移動拡散性に乏しく粒子吸着性の高い物質の'たまり場'となることが推察された。 5)沿岸性の一部深海生物に蓄積するBTsやPCBs,PCDDs,PCDFsの濃度は、魚介類の薬物代謝酵系や内分泌系をかく乱する惇性毒性の閾値に近いものであった。よって、深海生物の内分泌系に及ぼす毒性影響の解明が今後の課題となった。
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