研究概要 |
p53の機能は想像以上に多彩である。分裂能をもつ細胞は、遺伝子に揖傷が生じるとその傷を感知し、細胞周期を遅延させDNA損傷部の修復を行う。また、細胞の状況によってはアポトーシスを誘導し、拐傷細胞を除去している。発生初期の胎児では、揖傷をもつ細胞が組織内に生じると、アポトーシスによってそれを効率よく排除し、奇形の発生を防いでいる。p53へテロ欠損(p53^<+/->)マウスは,正常(p53^<+/+>)マウスに比べ放射線致死抵抗性である。しかし、2GyのX線被曝で生まれてきたp53^<+/->マウスには、30%の高頻度(自然発生率で補正)で奇形が生じる。放射線によるマウス胎仔の外表奇形と死亡率はp53遺伝子が正常か否かで劇的に変化し、放射線致死感受性と催奇感受性とは相反関係を示す。 p53は、DNA揖傷の危険から個体を守るためのアポートシスの誘導に必須である。p53正常マウス胎仔での放射線によるアポトーシス誘発頻度は、照射後4時間以内にピーク値に達し、48時間後にはほぼ自然発生のレベルに戻る。単位線量当りの放射線誘発アポトーシス率は、p53遺伝子が正常か否かに依存し、p53^<+/->マウス胎仔ではp53^<+/+>マウス胎仔細胞の半分である。さらに、マウス胎仔では2GyのX線照射によっても、放射線被曝によるp53タンパク質の増加は認められない。従って、潜在的な非活性型p53タンパク質分子が、DNA損傷を直接認識して、アポトーシスを誘導するものと思われる。つまり,胎仔ではp53の転写活性を経由しない経路のアポトーシスを介した組織修復で奇形を回避している。さらに、放射線による催奇性障害にはp53依存性監視機構のおかげでしきい値があり、主要器官形成期のマウス胎仔にγ線を42mGy/hrの低線量率で2Gy照射しても、奇形は正常値を越えない。
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