研究概要 |
果樹園等のように集中施肥および置肥が行われる農耕地における散水・降雨に伴う未利用窒素成分の土壌浸透による地下水汚染の防止対策として,土壌層内での生物学的脱窒に必要となる電子供与体成分を直接供給する原位置脱窒法を提案した.本法では,集中施肥がなされた土壌層内に脱窒細菌の豊富な層を形成させるとともに電極を埋設して通電することにより生成する水素を利用し有効に脱窒を行うものであり,その特性について,モデル土壌層を用いた実験的検討を行うとともに,土壌層内の物質移動・反応を考慮した数理モデルを構築し,影響因子に関する理論的検討を行った.モデル土壌層は,基本的に不飽和状態であり,体積含水率0.3,分配係数0.15cm^3/g-soil,間隙率0.5程度であった.モデル土壌層内の充填生物活性炭脱窒細菌層の下端に設置した電極に通電を行うことにより,通電のない対照系に比べて脱窒速度が大きく増大した.これは,不飽和状態において電解生成水素が脱窒細菌層で利用されたためであると考えられた.不飽和脱窒層内における着目成分の物質移動と脱窒反応(電解生成水素と土壌中の有機物水素供与体による併発反応)を考慮した土壌層内反応モデルを構築し,数値計算を行ったところ,計算結果と実験結果は,比較的良好に一致し,モデルの妥当性が認められた.構築した本系に対する数理モデルを用いた数値計算結果から,本法による硝酸イオン除去に対して,脱窒細菌層の厚さと電流操作条件が最も重要な因子であることが示唆された.但し,電流条件と生成水素の分圧の関係は,汚染サイトの面積,土壌層の特性および硝酸性窒素フラックスにより大きく変化するので,その条件に応じて電極埋設位置を検討する必要があることが示された.本法は,地下水硝酸イオン汚染の防止策の一つとして,有効であると考えられるが,通電効率,長期安定性等について,さらに実験的検討を行う必要がある。
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