悪臭に対する苦情件数は、環境白書によれば、騒音・振動に続いて2番目に多い。それにも拘わらずその対策は他の公害に比べて非常に遅れている。その理由として、悪臭は直接人命に関わるものではないということだけでなく、悪臭公害の対策には大規模な装置や多大の費用を必要とするからである。現在悪臭対策は、物理・化学的手段が主流である。しかし、われわれの研究から微生物による悪臭公害の対策が有効であると認められてきている。悪臭公害を防除するには、発生源を根絶すること、さらには揮散してしまった悪臭成分を速やかに捕集し、処理する2つの方法がある。また、悪臭の苦情件数の約4分の1は畜産業によるものである。われわれは、豚ふんなどの悪臭性農水畜産廃棄物に好んで生育し、無臭化・コンポスト微生物を見出している。昨年度は、畜産業からの主要な悪臭成分の一つである n-吉草酸を菌体内に取り込んで分解する Rhodococcus sp.261株を分離した。本菌株は、グルコースなどの糖を利用できず、悪臭性のVFAのみを炭素源とした。これをセラミックビーズに固定化し、バイオフィルターを作成した。これに約100ppmの n-吉草酸を含む空気を通した。温度、ph、固定化菌数、水分、流量などを調節することにより、数週間にわたり完全に n-吉草酸を除去できた。今年度は、豚ふんなどを無臭化・コンポストする際に高温となるので、耐熱性の芽胞を形成し、しかも硫化水素を分解する無臭化細菌を検索した。百数十株の無臭化細菌を単離した。そして、それを Bacillus sp.と同定した。本菌株の硫化水素をph7〜9、35〜45℃でよく分解した。また、生育の培地の最適化を行い、生育につれて、硫化水素分解性も高くなった。無細胞抽出液でも硫化水素の無臭化能が見られた。本菌株をフスマを用いて拡大培養し、1g当たり5×10^6cfu添加して、鶏ふんを処理すると、硫化水素が発生せず除去できた。今後、本硫化水素分解酵素の単離と、バイオフィルターの作成をし、硫化水素の分解様式と応用について研究を進める。
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