有機化学的手法により蛋白合成系において伸長するペプチド鎖末端をmRNAにクロスリンクすることにより、分子内に自身のペプチドの一次配列の情報を持ったペプチドを得る方法論の開発を行った。抗生物質ピューロマイシンはリボソームにとりこまれ、アミノ酸を担持したtRNAの結合を阻害し、さらに伸長ペプチドを共有結合でトラップして、C末端にピューロマイシンを持った未成熟のペプチドを産成させることが知られている。そこでピューロマイシンを末端にもつRNAを合成し、それによる伸長ペプチドのクロスリンクを試みた。 1) ピューロマイシンの合成法の確立・ピューロマイシンの全合成についてはすでに報告がなされているが、収率やステップ数などの点で改良が必要である。また発酵生産物としてピューロマイシンは市販されているが、高価であり、また、デメチル誘導体の合成などはできない。そこでまずピューロマイシンの化学的大量合成を確立した。 2) ピューロマイシンをもつ長鎖RNAの合成の確立・さらにRNA固相自動合成用の固相担体を合成し、これを用いてピューロマイシンを3'末端に持つRNAを合成した。次に化学合成や酵素的に合成した長鎖RNA分子と結合させ、ピューロマイシンを3'末端に共有結合でもつmRNAを合成した。 3) 効率よいクロスリンクリンカーの選択・市販の蛋白合成システム(in vitro translation system)を用い、上記の方法で合成したmRNAを用いて、伸長してくるペプチドのクロスリンクを試み、得られたピューロマイシンを共有結合させたmRNA-purを鋳型として用い蛋白合成を行い、現在リボソーム内で効率良くクロスリンクさせる至適構造を検索した。
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