スフィンゴミエリナーゼは、スフィンゴリン脂質のリン酸エステル部を加水分解する酵素であり、これによって生産されるスフィンゴシン脂質は、生体内における細胞のシグナル伝達物質として、また重要な酵素の活性阻害物質として大きな注目を集めている。しかしながら、その加水分解機構は解明されていない。本年度はスフィンゴミエリナーゼの新規阻害剤として、酵素により加水分解されるリン酸エステル部の酵素をメチレン及びエチレンで置き換えた類緑体をデザインし、これらの合成を実現した。すなわち、野依法を用いた2-アシルブチロラクトンの不斉還元により相当する光学活性なアルコールを得、ラクトン環の開環、続いてホフマン転位を行った。ホフマン転位によって生じたイソシアナートは分子内に存在する2級水酸基により選択的に補足され、2置換オキサゾリジノン化合物を与えた。この化合物をホスホン酸エステルに誘導し、続いてコリン部を導入することでスフィンゴミエリンメチレン誘導体の合成を達成した。また、エチレン誘導体も同様の方法で合成できた。これらの化合物は細菌由来のスフィンゴミエリナーゼの加水分解能を明らかに阻害した。 一方、私達が先に見出したホスホリパーゼA_2(PLA_2)阻害剤であるオキサゾリジノン環を持つアミドリン脂質類緑体とウシ膵液由来PLA_2の複合体の結晶化を検討し、結晶を得た。そのX線結晶構造解析を行ったところ、触媒部位に強い電子密度を示す解析図が得られたが、複合体の構造解明には至っていない。阻害剤の結合定数が小さいため、一定の立体配座を持つ阻害剤との単一の複合体が得られ難いためと推定される。目下、得られた解析図のいっそうの精密化を検討している。
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