研究概要 |
ホスホリパーゼA_2(PLA_2)はグリセロリン脂質の2位のエステル結合を位置特異的に加水分解する酵素の総称で、不飽和脂肪酸の代謝に関与する。一方、スフィンゴミエリンのリン酸エステル部を加水分解する酵素は、総称してスフィンゴミエリナーゼ(SMase)と呼ばれる。本研究では、これら両加水分解酵素に対する阻害剤を開発し、その阻害機構の解明を目的とした。 I)ミセル状基質認識部位に作用する強力な阻害剤として新たに(E)-3-methoxycarbonyl-2,4,6-trienal(A)を開発し、その合成法の確立、各種類縁対の合成とそれらの阻害活性の検討、(A)と酵素複合体のアミノ酸分析、アミンとのモデル反応、MALDI-TOF-Massの利用などによって、(A)はウシPLA_2のミセル状基質認識部位を構成するLys-56を非可逆的に修飾することにより不活性化させるとの結論を得た。これによりウシ膵液PLA_2の基質認識部位を明確にすることが出来た。 また、酵素の触媒部位に作用する阻害剤として、私達は既にオキサゾリジノン環を持つ環状アミド類縁体(B)を開発しているが、今回新たに第2世代の環状アミド類縁体阻害剤の開発を実現した。また、(B)の阻害機構解明に向けて、(B)と酵素複合体のX線結晶解析も実現しつつある。 II)一方、SMaseに対しては、まずスフィンゴリン脂質の効率よい合成法を確立し、これにより種々類縁体を合成しそれらの基質としての適性を検討した結果、SMaseの基質として天然の立体化学が本質的に重要であることを明らかにした。次いでSMaseの触媒部位に作用し、基質に対して拮抗的に阻害する可能性を持つ基質類縁体として、加水分解される部位の酸素原子をメチレン及びエチレンに置き換えたスフィンゴリン脂質類縁体の初めての合成に成功した。また、これらはいずれもSMaseを阻害することが明らかとなった。
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