研究概要 |
当研究室では効率的なオレフィン環化反応剤である水銀トリフラートを開発し,様々な多環式テルペノイドの合成研究を展開してきた.また本試薬が水の存在下にも安定でかつ十分な反応性を保持していることに着目し,水存在下にゲラニルゲラニルアセテートの環化反応を行い,カチオン中間体を水で捕捉することに成功した.これは生合成類似オレフィン環化反応が協奏反応ではなく,フレキシブルな立体配座を取るカチオン中間体を経由して段階的に進行することを初めて証明した実験である.水銀トリフラートは従来ニトロメタン中でHgOと無水トリフラートの反応で長時間を要して調製していたが,最近アセトニトリルを溶媒とすることで瞬時に定量的に生成する事を見いだした.さらにアセトニトリル中での水銀トリフラートの反応性を再検討し,ホモゲラニルアセテートの環化反応が高選択的に四置換オレフィン体を与えることを明らかにした.この生成物はタキソ-ルのA環に相当することから,これを活用して生合成類似のルートによるタキソ-ルの合成研究を展開した.A環部に側鎖を導入して,マクマリ-反応でビシクロ[9,3,1]ペンタデカトリエン骨格を構築し,水銀トリフラートによる生合成型の渡環反応を実現してタキサン骨格を合成しようとする計画である.タキソ-ルのB/C環トランスの立体化学を渡環反応で確保すはるためにはup-up型コンホマ-が必要で,これが圧倒的に優先する基質をMM2計算を基に設計し,水銀トリフラートによる渡環反応を検討した.その結果,p-ニトロベンゾエ-ト基が脱離した後に,複雑な転移反応を経由し,最後に好ましくない方向に渡環反応を起こした四環性水銀化合物が単離され,X級結晶解析によりその構造を明らかにした.
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