研究概要 |
本合成研究の出発物質はホモゲラニルアセテートで,これを水銀トリフラートによる環化反応にはって高選択的にタキソールA環前駆体に変換した.一方アセチレンのヒドロジルコン化により,側鎖部分を高選択的に合成し,側鎖部分をA環前駆体に縮合させて,ケトアルデヒド体を誘導し,低原子価チタンによる12員環形成を行って,ビシクロ[9,3,1]ペンタデカン骨格を有するジオール体を効率的に合成し,X-線解析により,このジオール体が1,2-シス配置を取っていることを明らかにした.ここで,空間配座探索プログラムCONFLEXによる分子力場計算を行い,1,2位がトランスジオールとし,これを適時保護した化合物が渡環反応に必要なアップアップのコンホーマーを取ることが明らかになった.そこで,光延反応によって2位を反転させたp-ニトロペンゾエート体を合成した.そして,アセトニトリル中で酸捕捉剤TMUの1.2当量存在下に,水銀トリフラートとの反応を行ったところ,22%の収率で得られた主生成物のNMRは一見してp-ニトロベンゾイル基が欠落した,渡環反応生成物である可能性が示唆された.しかし,X-線解析が示した構造は,A環上のジェミナルのジメチル基が環の外に飛び出してしまって,とんでもない転位反応と渡環反応生成物であった.意外ではあったが,非常に興味深い反応で,反応機構を考察するとともに,この段階で,Tetrahedron Letters誌に発表することにした.合成の努力はここからカチオンの制御に焦点を合わせることにし,1,2位の保護基にはカーボネートを採用することにした.Mullerのパラメーターを用いて,12員環カチオンのコンホメーション計算を実行し,渡環反応前駆体に望ましい中間体を導き出すことに成功した.8位に水酸基を持つビシクロ[9.3.1]ペンタデカジエンを合成して,渡環反応の実現を図っている.
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