研究概要 |
本年度は本研究の最大の目標であるところのX線結晶解析にかかる結晶の作製と回折データ収集・解析に特に重点を置いて研究を進めた。その結果、透析法によって、質の良い三次元結晶を再現性よく得ることができるようになった。X線回折による分解能はchain tracingを可能にする3.5Åを十分超えるものであった。この結晶化の為には特に脂質の扱いが重要であり、定量を容易に行う方法もわかったので、再現性を著しく向上させることができた。現在、同型置換体の検索を行っている。この三次元結晶は板状であって、ごく薄いものは電子線を透過させる。従って、電子線による解析も可能と考えられるが、超薄三次元結晶を解析できる技術は存在しないため、まずその技術開発から行う必要があった。開発は順調に進行し、電子線回折のための回転写真法を開発し、三次元逆空間を再構成できるようになった。この結果、電子線用のごく薄い結晶もX線回折用のものとほぼ同一の格子を持つことが判明した。従って電子顕微鏡像による位相収集は非常に有意義なものと考えられる。そこでまず、c軸方向の投影像を得、位相情報を6Å分解能まで得た。この位相情報は限られた面((h,k,0)面)の情報ではあるが、差フーリエ法を用いることによりX線による重原子置換体の検索に非常に役立つことがわかった。さらにデータ収集とソフトウェアの開発を進めた結果、他の面に関しても位相情報を集積することが出来るようになり、l=1面に関しては8Åまでの位相が求められた。現在さらに、電子顕微鏡像からの位相情報と重原子置換体による位相を統合し、5Å分解能程度での良いマップを得られるべく研究を進めている。
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