本研究はシンクロトロン放射光を使ったX線回折によって筋肉中のアクチンフィラメント反射の強度と位置(スペーシング)の変化をサブミリ秒の時間分解能で調べ、アクチンフィラメントの構造変化・伸展性と張力発生の関係を明らかにすることを目的としている。 高エネルギー研フォトンファクトリーのシンクロトロンストレージリングの高輝度化改善作業は平成9年11月に終了し、現在高輝度化試運転が行われ平成10年5月から高輝度放射光の利用が本格的に行われる。この作業の間、我々は集束光学系の改善と検出器の高速化を進めてきた。集束光学系は一枚の白金コートしたミラーを4点ベント方式で湾曲させることにより、ミラーの受光角を従来の2倍にし、上下方向の集束ビームの大きさを半分にすることができた。このことにより高輝度化ビームが利用出来る時点では従来より一桁強いX線を利用できることが明確となった。X線検出器はドラム型イメージングプレート回転装置の改善を進めた。25x40cmのイメージングプレートを2枚縦に並べて利用し、電気的ノイズの原因となるデータ読み取り部を別途使用とした。反射はこのイメージングプレート上に1次元ストリークパターンとして記録される。ドラムを最高させて(20rps)使用したとき、25マイクロ秒の時分割測定が可能となっている。 骨格筋のアクチンフィラメントの力学的性質を良く理解するために、筋節長を変えたり、収縮筋に筋長変化を与えることによって発生張力を変えて行ったX線回折のデータ解析を進めた。アクチン反射スペーシングの変化量と力は線形となり、アクチンフィラメントの伸びは純弾性的であることが明確となった。さらに硬直状態にある筋肉についての実験データの解析から、アクチンフィラメントは活性時同様の弾性的性質を持つことが明らかとなった。このことからアクチンフィラメントの力学的性質は筋の状態によらずフィラメント固有の性質であることがわかってきた。
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