研究概要 |
バクテリオロドプシン(bR)を典型的な膜蛋白質としてとりあげ、そのフラグメントの一部を化学合成するとともに、野生株および部位特異変異株の[2-^<13>C]-,[1-^<13>C]-,[1,2,3-^<13>C_3-Alaおよび[1-^<13>C]Val-標識蛋白質を、これら安定同位体によって置換した人工培地を用いて大量調製を行い、固体高分解能NMRスペクトル測定をもとに、以下の結果を得ることが出来た。 (1)フラグメントの化学合成 膜貫通αへリックスを含む種々の^<13>C標識フラグメントを化学合成し、脂質二重膜にうめこみ固定のスペクトルデータと比較し、膜中での遅い異方的な揺らぎ運動の存在によって、α_<II>へリックス様の挙動が見られることを明らかにした。 (2)スペクトル分解能と同位体標識位置 これまでに研究を積み重ねてきた[3-^<13>C]Ala標識bR試料にくらべて、今回の実験からえられたbRの^<13>CNMRスペクトルの分解能は、特にループ部位のように信号が完全に消滅するか、膜貫通αへリックスのようにその線幅の拡がりが著しいことがわかった。これらは、標識位置にある炭素の化学シフト異方性が数kHz程度で、これらを平均化するのに必要なマジック角回転に干渉したり、スピン-スピン緩和時間の短縮がその原因であることがわかった。 (3)膜表面残基の構造とダイナミックス 前項の結果、ループ部位は従来考えられていたような静的な構造ではなく、10kHz程度で揺らいでいる構造であることがわかった。また、C末端αへリックスがC末端に存在することが既に報告しているが、その揺らぎの相関時間をスピン格子緩和時間およびスピンスピン緩和時間の測定値から推定することができた。、また、膜貫通αへリックス構造もふくめ、プロトンデカップリング周波数と干渉するもう一つの揺らぎの検出の可能性を検討した。このC末端へリックスと細胞質ループの間の相互作用についても、種々の変異株のスペクトルパターンの変化から議論することができた。
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