研究概要 |
1948年肝臓中の抗悪性貧血因子として発見されたビタミンBl2の研究は、補酵素であるビタミンBl2にのみスポットがあてられ、酵素全体の構造と機能はまだ闇のなかにあった。しかしX線構造解析の近年における進歩力がB12酵素の生化学の新局面を開こうとしている。われわれは、酵素全体の構造を解明し、自然界には他に類例を見ないコバルト-炭素σ結合の活性化の基礎的知見を得るべく、ジオールデヒドラターゼ-シアノコバラミン複合体の結晶化、X線回折実験に取り組んできたが、ようやく回折を与える結晶を作成し、つづいて放射光を用いた構造解析に成功した。結晶化に関する論文は印刷中であり、続いて立体構造の論文を発表するべく準備している。今回われわれが解析したジオールデヒドラターゼとシアノコバラミンの立体構造を見ると、下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基がそのままコバルト原子に配位しており、すでに解析された3例とは異なるまったく新しい構造を提示することができた。見いだされた構造の大要を述べる。酵素はα,β,γの3つのサブユニットから成るが、最大であるαサブユニットに8つのαヘリックスとβ鎖から成るいわゆるTIMバレルが存在し、そのC端側にシアノコバラミンがシアノ基をTIMバレルの方向に向けて結合している。基質であるプロパンジオールと反応に必須であるカリウムイオンはTIMバレルの内部に近接して見いだされた。下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基はβサブユニットと接触している。γサブユニットはシアノコバラミンとは直接の接触を持たない。ジオールデヒドラターゼの場合、生化学的研究からコバルトリガンドの下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基が上方配位子-コバルトリガンドーの系を制御して、ラジカルの転位反応を起こしているものと予測されている。すなわちシアノコバラミン-ジオールデヒドラターゼの構造決定によって、さらにつぎの段階である上方配位子のアデニン部分と酵素および基質との相互作用の研究が日程にのぼってきたと言えよう。
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