研究概要 |
ジオールデヒドラーゼの結晶化、X線回折の実験に取り組んできたが、ようやく回折を与える結晶の作成に成功し、立体構造を解明することができた。われわれが解析したジオールデヒドラターゼとシアノコバラミンの立体構造においては、下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基がそのままコバルト原子に配位しており、すでに解析された2例であるチオニンシンセターゼのB_<12>結合ドメインとメチルB_<12>複合体の結晶構造、メチルマロニルCoA-ムターゼ-ヒドロキソコバラミン複合体の結晶構造とは異なるまったく新しい構造を提示することができた。見いだされた構造の大要はつぎのとおりである。酵素はα, β, γの3つのサブユニットから成るが、最大であるαサブユニットに8つのαヘリックスとβ鎖から成るいわゆるTIMバレルが存在し、そのC端側にシアノコバラミンがシアノ基をTIMバレルの方向に向けて結合している。下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基はβサブユニットと接触している。γサブユニットはシアノコバラミンとは直接の接触を持たない。ジオールデヒドラターゼの場合、生化学的研究からコバルトリガンドの下方配位子であるジメチルベンズイミダゾール基が上方配位子-コバルトリガンド-の系を制御して、ラジカルの転位反応を起こしているのであろうと予測されている。すなわちシアノコバラミン-ジオールデヒドラターゼの構造決定が、さらにつぎの段階である上方配位子のアデニン部分と酵素および基質との相互作用の研究が日程にのぼってきたと言えよう。なお、補酵素結合部位のアミノ酸配列の相同性などから前者の結合様式をとる酵素にはグルタミン酸ムターゼ、α-メチレングルタミン酸ムターゼなどがあり、後者の結合様式をとる酵素にはグリセロールデヒドラーゼ、エタノールアミンアンモニアリアーゼ、リボヌクレオチドレダクターゼなどがあるとされている。現在のところ後者の結合の系を持つB12酵素は本研究のジオールデヒドラーゼの構造決定が最初である。
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