研究課題
筆者らは、従来の研究のなかから形質転換タバコ植物中でmRNAの転写や安定性には影響を与えずに翻訳効率のみを促進させる塩基配列、所謂"翻訳エンハンサー配列"を2種類見い出した。ひとつは光化学系1核遺伝子psaDbの5'非翻訳領域にある23塩基対の配列であり、他のひとつはβ-glucuronidase(GUS)遺伝子の5'非翻訳領域に挿入された(U)_<20>というきわめて単純な配列である。本研究の目的は、この2種類の配列による翻訳促進効果に必要なシス及びトランス因子群を検討し、両エンハンサーの作用メカニズムの輪郭を明らかにすることである。psaDb型エンハンサー配列については、本年度は、mRNA上の(1)5'キャップ構造、(2)3'ポリ(A)尾部、(3)5'非翻訳領域の長さと塩基配列、(4)タンパク質コード領域の塩基配列、等々の要素との関係について、小麦胚芽由来のIn vitroタンパク質合成系等を用いて解析を進めてきたが、まだ明確な結論を得るには至っていない。ポリ(U)型の翻訳エンハンサーについては、ウサギ網状赤血球や小麦胚芽由来のin vitro翻訳系、タバコ培養細胞やアフリカツメガエル卵母細胞の翻訳実験系等では顕著な効果はみられなかった。一方、パーティクルガンを使ってタバコ植物の葉組織や幼苗に直接キメラ遺伝子を導入し、その一過性の発現を解析したところ、形質転換タバコでみられたものに近いエンハンサー効果が観察された。このパーティクルガンによる実験系を使ってポリ(U)配列のエンハンサー効果を解析したところ、(1)(U)_<20>よりも(U)_<33>のほうがエンハンサー効果が強い、(2)(G)_<20>,(A)_<20>や(C)_<20>のホモポリマーではエンハンサー効果はみられない、(3)(U)_<20>や(U)_<33>によるエンハンサー効果は植物組織の生理的状態によって変動しているらしい、といった知見がえられた。
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