「翻訳エンハンサー配列」とは、細胞中でmRNAの転写や安定性には影響を与えず、mRNAの翻訳効率のみを促進させる塩基配列である。著者らはそのような機能を持つ配列を形質転換タバコの系で2種類見い出しており、昨年度まではそれらの配列の作用メカニズムについて解析を進めてきた。しかし、解析を進めるにつれ、それらの翻訳エンハンサーは当初予想していたほど自律的に作用するものではなく、その効果の大きさはタンパク質コード領域やUTR内の塩基配列によって大きく左右されることが明らかになった。このことは、翻訳エンハンサー機能に必要な塩基配列領域を絞り込むことは当初予想したほど簡単ではないことを意味している。そこで、今年度の研究では、真核細胞mRNAで機能する翻訳エンハンサー配列を網羅的に収集し、そこに共通する性質を抽出するための全く新しい実験手法を開発した。この実験手法はPCRをベースにしたin vitroの分化進化の原理をin vivoやin vitroのタンパク質合成系に適用し、ランダム挿入配列のなかから翻訳エンハンサー活性をもった塩基配列モチーフ群を網羅的に単離するというものである。この実験手法によって実際に小麦胚芽由来のin vitroタンパク質合成系で機能する翻訳エンハンサーモチーフを解析したところ、5'UTR中で機能するエンハンサーモチーフ群と、キャップ非依存的な翻訳を促進する3'UTR中のエンハンサーモチーフ群をそれぞれ単離することに成功した。次いでこれらのモチーフ群を解析したところ、真核細胞mRNAに作用する翻訳エンハンサーの作用メカニズムについては何種類かの異なったタイプのあることが示された。
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