研究概要 |
遺伝子・神経回路・行動の間の関係を解明するために、線虫C.elegansの種々の変異体の解析を行っているが、本年度は以下の成果を得た。 (a)アミロリド感受性上皮Naチャンネルに似たイオンチャネルをコードするflr-1遺伝子について:flr-1コード領域全部を含むflr-1::GFP融合遺伝子が、フッ素イオン耐性、成長遅延、短い脱糞周期、脱糞動作の部分的消失、unc-3変異存在下でのdauer幼虫異常形成というflr-1変異表現型を抑圧するが、腸のみで発現することを確認した。脱糞動作はAVL,DVB神経と脱糞用の筋肉、dauer幼虫成制御は感覚器官amphidの神経の働きで行われるので、FLR-1は腸で働き、これらの神経(筋肉)の機能を制御するらしい。フッ素イオンの存在下で野生型C.elegansは脱糞周期が伸びるがflr-1変異体は伸びないことを発見した。これは、FLR-1は野生型線虫でも脱糞周期長の制御を行うことを示唆する。 (b)二重変異によりdauer幼虫形成が構成性になる変異群について:daf-3,daf-5,dpy-3,osm-1,tax-2,unc-86などの変異が、これらの変異表現型を抑圧することを発見した。抑圧のパターンは抑圧変異により異なるが、dauer形成制御信号が3つの並列経路を通るモデルと矛盾しない。unc-31変異存在下でのdauer幼虫形成異常を指標として分離した44の新しい変異体の代表的なものについて、行動異常を調べた。その1つは、水溶性物質と一部の揮発性物質への正の走化性が負の走化性に変化し、温度走性にも異常が見られた。 (c)介在神経で発現する2つの代謝型グルタミン酸受容体遺伝子の変異体について:1つは銅イオンからの忌避に対する飢餓の影響が異常であり、もう1つは銅イオンからの忌避と揮発性物質への走性との選択が異常だった。現在、これらの異常が当該遺伝子によるのか、side mutationによるものかを調べている。
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