本研究では、モエシンをノックアウトしたマウスを作製することに成功し、そのフェノタイプを詳細に調べた。モエシン遺伝子はX染色体上にのっていたが、その遺伝子を破壊したES細胞からのキメラマウスは無事に生まれ、生殖細胞系列に通った。そして、最終的にモエシンを全く発現していないマウスを得ることに成功した。このマウスは全く正常に生まれ、正常に成長した。生殖能力にも異常がなく、特別な行動異常も見られなかった。各組織のERMの発現と分布を、ウェスタンブロッティングと蛍光抗体法で詳細に検討したが、モエシンだけが正常の細胞から欠落しているだけで、エズリンとラディキシンの発現にも何の変化もなかった。組織学的にも形態異常は全く見られなかった。そこで、これまでERMが関与していると言われてきた細胞レベルでの現象について詳細な検討を行った。まず、ERMはRhoの下流でストレスファイバーの形成などに重要な役割があると報告されているが、オクルディン欠失マウスから培養した線維芽細胞は立派に発達したストレスファイバーを形成していた。また、モエシンが-なくても微絨毛に形態異常はみられないことも培養肥満細胞のレべルで明らかになった。さらに血小板ではERMのうちモエシンが圧倒的に多く、これが血小板の凝集に重要な役割を果たしていることが報告されていたが、モエシンを欠く血小板も遜色なく凝集することが分かった。以上の事実は、想像されていた以上に、ERMは個体レベルでも機能的に重複していることを示している。さらに、全体としての発現量もその機能から考えればかなり余裕があり、発現量のごく一部だけが機能していることも示唆された。
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