異なる二つの娘細胞を生じる"非対称分裂"は、細胞の多様性を生むための基本的なプロセスである。ショウジョウバエの神経発生の突然変異から同定した転写因子prosperoは神経幹細胞の非対称分裂に伴って2次前駆細胞に不等分配され、非対称分裂よる娘細胞間の非対称性を示す典型的な蛋白因子である。Prospero蛋白上に同定した非対称分配に必須なドメイン(非対称分配ドメイン)は、神経幹細胞の分裂期に、細胞内に形成される極性を認識すると考えられるが、このドメインと相互作用する因子mirandaを酵母two-hybrid法を用いて同定した。mirandaタンパクはprosperoと同様に、神経幹細胞の非対称分裂に伴って2次前駆細胞に不等分配される。miranda遺伝子の突然変異体を複数同定し、prosperoの不等分配を解析したところ、prosperoの不等分配に関して、 (1)prosperoを結合し、細胞のcortexに局在させることにより不等分配する、 (2)分裂完了後、神経母細胞のcortexからprosperoを核に放出する、 という二つの機能をmirandaが担っていることが判明した。さらに、miranda変異体において、神経細胞の個性を決める遺伝子の発現や神経系の形態の解析を行い、、mirandaの果たすこの二つの機能が共に神経細胞の個性の決定に必須なことを示した。 本研究では、prosperoとmirandaが分化因子の不等分配を行う分子複合体を構成することが示されたが、同時に、神経幹細胞の非対称な分裂が、このような分子装置によって子孫細胞の遺伝子発現に非対称性を与え、神経系の細胞の運命決定に直接関与していることが明らかになった。
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