研究概要 |
今年度は、脊髄・脳・末梢神経の損傷修復過程における種々のcytokineやニューロトロフィンの役割を明らかにするための基礎資料として、それぞれの因子の時間的、空間的発現について検討した。ラット脊髄圧迫損傷モデルにおいては、受傷後1〜3時間をピークとしてc-fos,c-junなどのmRNAが損傷部位のミクログリアやastrocyteに発現、3〜6時間をピークにミクログリアにIL-1β,TNF-α,IL-6のmRNAが発現した。その後24〜72時間にNGF,BDNF,NT-3のmRNAがastrocyteに強く発現し、長時間持続した。これらの遺伝子発現は、髄腔内へのステロイドの注入で著明に抑制された。脳ではラット局所脳虚血モデルを作製し、IEGs、ニューロトロフィンなどの遺伝子発現について検討した。虚血後早期より虚血周辺部(Penumbra領域)でc-fos,HSP70,COX-2,BDNF mRNAの発現が見られ、HSP70mRNAを発現していた細胞も24時間後には壊死に陥った。虚血直後より神経保護作用を有するマグネシウムを静脈内持続投与すると、梗塞巣の縮小が認められた。また、これらの保護因子のリセプター(gp130,LIF-Rβ,Trks)や細胞内情報伝達系(MAPkinase,JAK-STAT系)についても、脳・脊髄・DRGにおける分布と損傷や炎症による変化を検討している。末梢神経障害とサイトカインの関係については、ラットでCCIモデルを作製し、坐骨神経におけるTNF-αmRNAの発現をRT-PCR法により検討したところ1日〜2週間にわたって発現が見られたが、TNF-αmRNAの発現しないモデルにおいても痛覚過敏が見られるため、疼痛とTNF-αの関係については更なる検討が必要である。AdVを用いた遺伝子導入については、一次知覚伝達系をモデルとしてAdV-lacZを用いて基礎実験を行った。AdV-BDNFを足底皮膚に注入し、後根神経節におけるBDNFの過剰発現が、疼痛関連行動と脊髄後角におけるリモデリングなど神経可塑性に与える影響について検討中である。
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