研究概要 |
ニューロフィラメントを構成する3種類のサブユニット(NF-H[見かけの分子量は200,000],NF-M[同160,000],NF-M[同68,000])のうち、今回はNF-Hの溶解性を中心として、軸索の再生にともなうニューロフィラメント蛋白の動態変化と、その軸索内輸送との関連性につき検討を加えた。 [実験方法]:7週齢ラットの脊髄前角部(L_<3-5>)にL-[_<35>S]メチオニンを注入し、その2〜4週間後に前根および坐骨神経を摘出して、6mmの連続切片とした。損傷群では摘出1週間前に大腿中央部で坐骨神経に凍結損傷を加えた。各切片を液体窒素で凍結・破砕した後、phosphatase阻害剤を含む1%Triton緩衝液を用いてそれぞれの切片中の蛋白を可溶性と不溶性に分別後、SDS電気泳動で分離し、NF-H,NF-Lの放射活性を定量すると共に、イムノブロットを行った。 [結果と考察]:正常神経では、NF-H全体の溶解性は細胞体からの距離によらずほぼ一定(約20%)である。損傷神経では、損傷後1週間でWaller変性により損傷部位より遠位側のニューロフィラメント蛋白がほぼ完全に消失する。その後、新たに伸長する再生軸索内ではNF-Hの溶解性が高く、そのC末端側のリン酸化程度は低い。一方、損傷部位より近位側の変化を軸索内輸送されている標識ニューロフィラメント蛋白により検索すると、NF-Hの溶解性上昇とともに、NF-Lの量の相対的な低下が明らかになった。これらの変化は標識蛋白がより細胞体に近い位置にあるほど大きい。以上の結果から、ニューロフィラメントはN末端側のリン酸化・脱リン酸化によって制御される通常の重合・脱重合変換以外に、NF-Hの選択的離脱によっても構造や安定性の調節が行われることが示唆される。
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