研究概要 |
一つの生体内活性物質の役割を,分子的基盤のもとに明らかにすることは生命科学における最重要課題の一つである.1950年代から,ドーパの作用及びパーキンソン病における効果はドーパ脱炭酸酵素によるドパミン(DA)ヘの変換によると信じられてきた.これに反して,我々は国内外を通じて初めて1986年に,「ドーパそのものが伝達物質である」との作業仮説を提起し,その検証を進めてきた.次なる核心的課題はドーパシグナルを担う分子,ことに"ドーパ受容体"及びその下流域に存在する機能分子の同定にある.本研究の動機は,線虫(Caenorhabditis elegans)をドーパ及びDAを含むプレートに置き,その行動変化を比較・観察した結果,線虫の行動に対しドーパはDAとは異なる効果を示すことを見い出したことにある.本計画年度における主要な成果は以下の2点である. 1)変異誘発物質エチルメタンスルフォン酸を処理した線虫のF2個体2000のスクリーニングから,ドーパ応答を欠失した線虫変異株dpa-1〜9(dopa response abnormality)を単離した. 2)ウサギ小腸上皮polyA^+RNAを卵母細胞に注入したアフリカツメガエル卵母細胞において,Na^+イオン依存的L-[14C]ドーパの取り込み活性を見い出した 現在,上記1)において単離した線虫変異株9つの遣伝子マッピングを継続中である.さらに,変異部位がある程度絞られた段階において,本研究助成により新たに購入した倒立型顕微鏡を用い,コスミドクローンによるレスキュー実験を行う予定である.一方,上記2)に関して,ウサギ小腸上皮polyA^+RNA注入卵における,Na^+イオン依存的L-[14C]ドーパの取り込み活性の性格を詳細に検討しつつあり,その結果は未だ同定に至っていないアミノ酸トランスポーター分子の一つである可能性を示している(Ishii et al.,1998).
|