神経終末に到達した活動電位発生に伴って膜電位依存性Ca^<2+>チャネルから流入するCa^<2+>によって、チャネルに固定されたシナプス小胞の開口放出が誘因され、引き続いて終末内の小胞サイクル(再取り込み→伝達物質充填→膜への移送→膜への固定)が駆動される。このようなシナプス小胞の動態を、Ca^<2+>に結合能を持つ蛋白質群が制御していると考えられる。神経終末に存在することが確認されている幾つかのCa^<2+>結合蛋白質中、Doc2αとMunc13-1が互いに結合しあうことが最近明らかにされた。これらの蛋白質の相互作用がシナプス小胞サイクルのどの過程に関わっているのかを明らかにするために、それぞれの蛋白質との結合部位蛋白質を合成して神経終末内に導入し、活動電位発生に伴うシナプス小胞動態の変化を観察することを試みた。微細な構造をとる神経終末内に合成蛋白を導入することは非常に困難であるが、培養下で上頸交感神経節細胞間に形成されるシナプスは、1)細胞体が30-40μm比較的大きい、2)細胞体からシナプス形成部位までの軸策が短い、という特異的なコリン作動性シナプスであることから可能である。シナプス小胞の動態変化を観察するには、1)電気生理学的にシナプス応答の大きさの変化を記録する、2)蛍光色素を用いてシナプス小胞をラベルし、蛍光色素の動きをモニターするという方法が考えられる。本年度は、電気生理学的方法を用いた実験で、神経終末に到達したDoc2αとMunc13-1の結合部位蛋白質がシナプス活性とCa^<2+>濃度に依存した伝達物質放出の抑制を示したことから、これら蛋白質の相互作用がシナプス小胞の終末膜への移送過程を制御しているのではないかとの結論を導いた。さらに光学的実験方法をこの系で確立するために、蛍光色素FM1-43を活動電位発生に伴って一つの細胞の小胞に取り込ませ、活動電位発生に依存して消失することを確認した。
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