本研究の前に、老齢脳の機能低下の原因としてシナプスにおける神経伝達の効果低下を明らかにしてきた。脱分極刺激による電位依存性チャネルを介するCa^<2+>流入低下のために、アセチルコリン放出が減少すると説明された。この知見に基づいて、老化脳の機能改善のために電位依存性カルシウムチャネルの効率亢進を本研究の第1の目的とした。(1)まずシナプス膜に多く存在するガングリオシドが、分子内のシアル酸の働きによってCa^<2+>動態調節をする役割を期待した。ガングリオシドGM1、あるいはGQ1bをシナプトソームに作用させたところ、脱分極によるアセチルコリン放出を増加させた。それはガングリオシドが電位依存性カルシウムチャネルの効率を高めるためであることがわかった。(2)シナプス可塑性の指標として長期増強を取り上げ、ガングリオシドの効果をみた。ガングリオシドGM1、GQ1bともに長期増強効果を示すことが明らかになった。(3)ガングリオシドシナプス可塑性の促進効果をヒトへ応用しようとする場合、より低分子量のシアル酸化合物が有利であると考えた。そこでシアル酸コレステロールという化学合成によるガングリオシドアナログをテストした。その結果、シアル酸コレステロールのα、β異性体共にアセチルコリン放出を高めることが示されたが、そのメカニズムは異なることが明らかにされた。α-シアル酸コレステロールはCa^<2+>流入を高め、β-シアル酸コレステロールはコリントランスポータを活性化することによってアセチルコリン合成を高めてシナプス機能を亢進するメカニズムが証明された。
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