研究概要 |
平成9年度の計画にそって神経芽細胞腫GOTOの細胞培養による低酸素実験を行い核に濃厚に存在するμ-カルパイン前駆体の動態、並びにカルシウムの流入・分布、インヒビターの保護効果、細胞死の経時的な追跡などを行い、以下のような結果を得た。 1、神経系の細胞核に濃厚に存在するμ-カルパイン前駆体に対して細胞内カルパインインヒビターであるカルパスタチンの細胞内分布を免疫染色法により検索した。その結果カルパスタチンは細胞質には観察されたが、核内の染色はみられなかった。 2、低酸素により細胞内にカルシウムが流入することは多くの報告にみられるが、同時に神経系細胞の核内カルシウム濃度がどれ程上昇するかの詳細は明らかでない。低酸素条件下培養液還流実験でのARGUS-50による測定では、2〜3分後から細胞質、核内ともにカルシウム濃度は急速に上昇しはじめ約5分で最高値に達したが、核における濃度は細胞質における濃度より常に10〜20%高いことが示された。したがって、1の結果と合わせて、低酸素条件下で核内μ-カルパイン前駆体が活性化し、連鎖反応を起こしてその大部分が短時間に活性化されう る可能性が示された。 μ-カルパイン前駆体の活性化による核内蛋白質の分解を検索するために、数種類の転写因子について、まずin vitroでのμ-カルパイによる切断を試みた。その結果これまでにNF-κBp65,pit-1,oct-1,GHF-1,CREBが限定分解をうけることが証明された(第70回日本生化学会、抄録、生化学69,566,1977)。 4、虚血/低酸素による脳神経細胞死にカルパインがどれ程係わっているかを知るために、低酸素状態での細胞死の実験系にカルパインインヒビターを加えて経時的変化を観察した。30〜60分の時間経過で50〜60%の細胞が死滅するところインヒビターの存在下では20〜40%生存率は回復しカルパインインヒビターによる有意な保護効果が認められた。尚プロテアソームインヒビターによっては保護効果は観察されなかった。 以上、これまでの結果は少なくとも虚血/低酸素状態で神経細胞の核内カルシウム濃度は短時間のうちに上昇し、μ-カルパイン前駆体は活性化され、それが生理的に重要な核内蛋白質を分解して、神経細胞死をもたらすことが示され、当初の仮説を支持する結果となった。
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