研究概要 |
シナプス伝達の分子遺伝学的解析 シナプス伝達が起るためには、伝達物質を含んだシナプス小胞がシナプス前終末の膜と融合して内容をシナプス間隙に放出しなければならない。この過程には多くの蛋白が関与している。SNARE仮説はこれらの蛋白がどのように相互作用するかを示したものである。我々はこの分子機構を、重要な蛋白を欠失したショウジョウバエ突然変異体を用いて研究した。 神経型シナプトブレビン(n-syb)はシナプス小胞膜を貫通する蛋白で、テタヌス毒素の標的蛋白である。n-sybを欠失する突然変異体では神経を刺激してもシナプス電流は発生しない。しかしながら微小シナプス電流(mSCs)は残存し、その頻度は高K液中においてCa^<2+>に依存する。またmSC頻度はクモ毒やCa^<2+>イオノフォアーでも増大する。これらの結果はこの突然変異体で残存するmSCはCa^<2+>依存性を持つことがわかった。またcAMPは野生型幼虫ではmSCの頻度を増大させるが、この変異体においては、その作用は見られなかった。したがってn-sybなしでおこる小胞融合にはcAMP依存性がないことがわかった。(Yoshihara et al.,1999) Cysteine-string-protein(CSP)もまたシナプス小胞上にある蛋白であり、電位依存性Ca^<2+> channelと相互作用を持つことが知られている。この蛋白の温度感受性変異体では高温では神経刺激によってシナプス電流が発生しない。そこでその状態においてはCa^<2+> channelが働かないのではないかと考え、Ca^<2+>指示薬を用いて神経終末のCa^<2+>濃度を測定した。その結果csp変異株では32゚では神経終末においてCa^<2+>濃度の上昇が少いことがわかった。 さらにシナプス小胞が小胞融合部位にdockしていることが、Ca^<2+> channelが正常に働くために必要なのではないかと考え、シナプス小胞のない状態で神経終末のCa^<2+>濃度の上昇を調べた。shibireは高温において小胞の取り込みが阻害される突然変異体である。したがって高温で刺激するとシナプス小胞が枯渇する。この状態ではCa^<2+>の上昇は見られなかった。(Umbach et al.,1998) シナプス前終末にある代謝型グルタミン酸受容体の活性化により、シナプス伝達が促進されることがわかった。この促進効果はadenylate cyclaseが関与しており、cAMPが増加することによって発現する。したがってadenylato cyclaseの機能が低下している突然変異体rutabagaでは代謝型グルタミン酸受容体活性化の効果がほとんど見られなかった。(Zhang et al.,1999)
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