小脳のプルキンエ細胞が、顆粒細胞と下オリーブ核からのシナプス入力を同時に何回か続けて受けると、顆粒細胞・プルキンエ細胞間のシナプス伝達は長期間抑圧される(長期抑圧)。この小脳長期抑圧現象は、運動学習の細胞レベルでの一基礎過程と考えられている。これまで、私たちは小脳培養系を中心に長期抑圧発現機構を解析し、IP3、Caイオン、mGluR1サブタイプのメタボトロピックグルタミン酸受容体、イオノトロピックグルタミン酸受容体δ2サブユニットが長期抑圧に関与することを明らかにしてきた。本研究では、mGluR1とδ2サブユニットがどのような機構で長期抑圧を発現させているかを明らかにすることをめざした。今回、私たちはMAPキナーゼが長期抑圧の発現に関与していることを新たに見い出した。長期抑圧を引き起こす刺激によってMAPキナーゼは活性化され、またMAPキナーゼ活性化酵素であるMAPKKの阻害剤であるPD98059により長期抑圧の発現が抑えられた。私たちは、このMAPキナーゼ阻害による長期抑圧発現の抑制に、MAPキナーゼによるmGluR1のリン酸化が抑えられることが関与していることを示唆するデータ得て、現在さらなる解析を進めている。δ2サブユニットの役割については、δ2サブユニットを欠損させたマウスからニューロンの培養を行い、その生理学的解析を行ってきたが、現時点ではδ2サブユニットを欠損させたマウスで長期抑圧が起らないこと以外には、ミュータントマウスと野性型マウスのプルキンエ細胞ではっきりした違いが認められていない。δ2サズユニット分子のミュータントを培養細胞に発現させδ2サブユニットの機能ドメインを決定する実験等も行っているが、現時点では明確な結論は得られていない。また私たちは、長期抑圧を1日以上の長期間にわたって解析する方法の開発に成功し、長期抑圧に初期相と後期相があることを見い出した。
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