研究概要 |
本年度は、上丘局所の電気刺激によって生じる上丘神経細胞の興奮の時間的・空間的変化について検討した。 妊娠17日から22日目のSDラット(10-14週令)をウレタン麻酔(1.1-1.3 g/kg,ip)し、気管ならびに大腿静脈にカニウレをあらかじめ留置した。母体ラットを仰臥位にし、下腹部ついで子宮壁を切開後、臍帯がつながった状態で胎仔を取り出した。胎仔を透明の塩化ビニール製の円筒に入れ、中村らの考案した胎仔固定装置に当部を装着し、歯科用セメントで固定した。実体顕微鏡下で胎仔の頭皮ならびに後頭骨を切開後、硬膜とくも膜を除き、上丘を露出した。膜電位感受性蛍光色素(RH795、1%)を用いて、上丘の染色(1時間)を行った。正立顕微鏡のステージにこの母仔ラットとともに固定装置をのせた後、膜電位光学測定システム(ARGUS-50/PDA)をセットした。上丘の前端にステンレス製の双極刺激電極を挿入した。電気刺激は、1msec幅の方形パルス10発を100msecの持続時間で与えた。刺激強度は、0.3,0.5,1mAの3段階で変えた。一回の刺激実験における上丘神経細胞の興奮性の変化は、同じ強度の刺激を16回繰り返し、その時の蛍光強度の変化を平均加算して求めた。 上丘の前端を電気刺激すると、刺激部位から上丘後方に向かう興奮の伝播が観察された。この興奮は、刺激の持続時間の100msecあるいはそれ以上続いた。上丘表面にTTX(3 μM)を添加すると、電気刺激による上丘での興奮はほとんど完全に消失した。刺激強度0.3mAと0.5mAのほうが興奮の広がる範囲が広かった。しかし、1mAの刺激では逆に興奮の広がりが小さくなっていた。これは、1mAの刺激では細胞が直接刺激された結果、陽極側の近傍の細胞で過分極が起こり興奮しにくくなったためと推測された。
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