昨年度に引続いて、運動性皮質の破壊(人工梗塞)の実験の例数を増やしている。1頭のサル(ゴロウ)で左右の運動野の破壊、右の運動前野の破壊を試みた。目下、脳の組織切片の作製中である。運動野の破壊面積が広い程、前腕の麻痺が強く、回復に時間がかかる。運動前野の破壊では回復が速かった。しかし、破壊の後、ゴーノーゴー課題を訓練として行うと徐々に麻痺が回復して行く。この時、運動前野にビククリンの微量注入で麻痺が強く出るようになった。つまり、梗塞のあと、手の運動の訓練をすることによって、運動前野からの抑制が強くなったと考えられる。このことが、麻痺の回復を助けていると考えられる。運動野の注入では、運動の麻痺が起こるだけで、可塑的な変化は見られなかった。運動野、運動前野の破壊面積が広いと回復に時間が掛かったので、狭い面積の破壊をして、回復を調べた方が、回復が速いと考えられ、運動の可塑性を調べるのに好都合である。そこで、運動の可塑性の程度と麻痺症状の回復との関係を定量的に記載するため、従来していた梗塞作製法(脳を露出して、焼くことで破壊する)ではなく、神経毒イボテン酸を注入して、梗塞を造ることにした。1頭のサル(ユースケ)で運動野に梗塞を造った。前腕伸筋の麻痺(運動野の抑制機能が脱落すると垂れ手、骨神経麻痺と似ている)のみがみられた。目下、機能回復と訓練の関係を調べている。
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