研究概要 |
ウイルソン病は、肝臓や腎臓、脳に銅が蓄積することによる肝疾患と進行性神経疾患を主徴とする遺伝性疾患である。原因遺伝子はATP7B遺伝子であることが明らかにされたが、これは細胞膜に存在する銅輸送性P-type ATPaseをコードしており、この蛋白は6個の銅結合部位を持つ。LECラットはウイルソン病のモデル動物であり、Atp7b遺伝子に大きな欠失変異を起こしている。この結果、銅のセルロプラスミンヘの結合や胆汁への排泄能を欠損しており、肝疾患を引き起こす。この研究では正常のヒトATP7BcDNAをLECラットヘ導入し、肝疾患への効果を調べた。 7014bpのヒトATP7BcDNAをトリβ-actinプロモータにつなげ、LECラットおよびSDラット受精卵に注入した。3系統のトランスジェニック(TG)ラットを確立し、RT-PCRによりほとんど全ての臓器に導入遺伝子mRNAが発現していることが確認された。さらにWestern Blottingにより肝臓にヒト型のATP7B蛋白が検出された。このラットは10週齢で、セルロプラスミン活性のわずかな上昇が見られたが、血清銅のレベルの変化は見られなかった。しかし、12週齢での血GOTとGPTのレベルは、同腹のLECラットに比較して大幅に低下した(260±43.5IU/L of GOT level in TG rats and 911.5±2.12lU/L in littermate LEC rats,P<0.01;258±58.9IU/L of GPT level in TG rat and 810.5±30.4IU/L in littermate LEC rats,P<0.01,n=3)。このことはTGラットはATP7B導入遺伝子が活性の持つ蛋白を作り出し、肝炎発症の遅延を引き起こしていることと考えられた。
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