研究概要 |
生体内ラジカル反応の機構解明を目指して,スピンプローブ剤を用いるin vivo ESR法の研究が行われている.これまではスピンプローブ剤にニトロキシルラジカルが多用されてきたが,臓器・組織への特異的集積性に乏しく生体内全体に広く拡散するために,目的部位のスピンクリアランス(酸化還元力)に関する情報が得にくい欠点があった.本研究では,内部にスピンプローブ剤を包含させたデンドリマ-がこの問題を解決する新規プローブ剤になりうると考え,TEMPOLラジカルを取り込ませたデンドリマ-を合成した. 第五世代のポリ(プロビレンイミン)デンドリマ-とTEMPOLをジメチルスルホキシド中で攪拌し.この溶液にN-tBOC-L-フェニルアラニン,無水フタル酸を加えることによりTEMPOLを包含した水溶性デンドリマ-(Den-Phe-phth)を合成した.包含されたTEMPOLの分子数は1分子のデンドリマ-に対し0.8個であった. スピンプローブ剤としての性質を調べるため,TEMPOLを含んだデンドリマ-(Den-Phe-tBOC)のアスコルビン酸ナトリウムによる還元反応速度をX-バンドESR法により測定した.その結果,TEMPOL単独と比べて還元反応速度が3.8倍低下した.次に,Den-Phe-phthの水溶液をラット腹部に皮下投与した後,L-バンドESR法で投与部位のラジカル濃度の径時変化を調べたところ,4-カルボキシTEMPOの単独投与に比べてラジカルの濃度の減少が11倍遅いことが分かった.この結果は,このデンドリマ-が投与部位に止まり,その部位のみのの酸化還元的環境を反映したものと考えられる. 現在,糖鎖を用いて末端を修飾したデンドリマ-を合成し,生体組織への特異的集積性を検討中である.
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