研究概要 |
当初計画にほぼ沿った研究を実施し,以下の知見が得られた.歩行運動を模擬出来るシミュレータでは,軟骨と人工材料間の摩擦試験を行い,流体膜形成や吸着膜,ゲル膜潤滑などを包含したマクロなレベルの多モード適応潤滑の基本的な機構を把握できた.また,動物関節の振子試験と軟骨/人工材料の往復動試験を行い,関節液や分子量・濃度の異なるヒアルロン酸溶液および蛋白添加液の粘性挙動を調べ,摩擦現象や潤滑モードとの関連を明らかにした.とくに,混合潤滑モードにおける潤滑剤や軟骨表層成分の潤滑効果を評価し,リン脂質や蛋白成分の潤滑性を検証できた.またγグロブリンやリン脂質のLB(ラングミュア・ブロジェット)膜との摩擦試験を行い,AFM(原子間力顕微鏡)で吸着構造を同定し,リン脂質・蛋白混合膜の潤滑効果を確認した.さらに,AFMを駆使して,動物関節軟骨の表面観察と摩擦特性との関連を探求するとともに,局所的な摩擦試験と「その場観察」を試みた.無潤滑条件下で,軟骨の摩擦試験を行うと,摩擦距離に応じて段階的に摩擦のレベルが上昇した.低摩擦から高摩擦域の各時点で試験を停止し,AFMによる表面観察と押込み試験を行った.液中ノンコンタクトモード観測により,表面プロフィルを把握し,押込み試験では荷重・変位曲線(フォースカーブ)によりゲル膜の残存状態を評価し,摩擦特性との対応を明らかにした.また,高含水性のハイドロゲル系軟骨模擬材料であるPVA(ポリビニルアルコール)ハイドロゲルやセミIPN(インターペネトレイティングネットワーク)ハイドロゲルを対象として,摩擦試験を行い,潤滑液の影響や摩擦の時間変化の特徴を探り出すとともに,生体関節軟骨との相違点を明示した.細胞の力学試験に関しては,せん断刺激に対する軟骨細胞の応答(インターロイキン6が特異的に産生)と伸張刺激に対する線維芽細胞の応答(強化機構)を確認しているが,広範な刺激条件の効果の把握は今後検討の予定である.
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