組織工学的な手法によって人工臓器を作り上げる研究が進んでおり、世界中の多くの研究者は高度の分化した細胞を始めから組み込むことで高機能人工臓器を作る手法を採用している。しかしながら、その様な高機能細胞を組み込んだ場合には、それらの高度に分化した細胞には分裂に限界があり、効率の良い組織形成は行われない。我々の改良点は人工臓器自身がそれに必要な細胞を誘導する細胞成長因子等を産生し、その因子に人工臓器自身が応答して高機能細胞の遊走、分裂などを促進させる、いわゆる「オートクリン型人工臓器」という考え方を提唱し、人工血管を例にとってそれを実証した。 まず、人工血管自身に内皮細胞を周囲組織から呼び込む機能を持たせるため、骨髄組織を人工血管内に自家移植した。骨髄組織は原始的な組織であるため、異所性に移植されても生着し易く、移植後は自分自身の生存の為、およびその本能的な性質である造血活動の為、多量の血管新生因子を産生する。その結果、動物実験では周囲組織から多量の毛細血管が人工血管内へ遊走して来るとともに、骨髄組織内に既に存在していた内皮細胞が活発に増殖し、急速に人工血管の内面は内皮細胞によって覆われた。人工血管壁内部では植え込みご3カ月以上経過しても骨髄細胞による造血活動が続いており、無数の毛細血管が存在するため、人工血管壁は血栓が無いにもかかわらずピンク色を呈した。この実験の結果、骨髄細胞を移植することで「オートクリン型人工臓器」は理論的にも可能であり、人工血管ではその考え方が機能することが明らかとなった。 この結果を我々は国際会議で報告したところ、ロンドン大学の形成外科グループでは皮膚移植時に骨髄腫腎を移植片下に散布し、毛細血管の誘導を計った結果、移植片の下層で毛細血管の増生が活発となり、結果的に移植片の血流は良好となり、生着率が向上した。この事は「オートクリン人工臓器」の考え方が普遍的に他の領域にも適応されることを示した。
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