研究概要 |
(1)歌唱時の脳内活動について 機能的核磁気共鳴画像(機能的MRI)を用いて、特殊な音楽能力を持たない右利きの通常人の歌唱時の脳内血流動態を調べた。その結果、右中前頭回後部、両側下前頭回弁蓋部(いずれも運動連合野)、および両側上側頭回後部(聴覚野)が賦活されることがわかった。これらの部位の左右大脳半球差に関しては、中前頭回後部では右半球のみに強い賦活が見られ、下前頭回弁蓋部では右半球優位、上側頭回後部の一部である側頭平面では左半球優位の賦活が見られた。したがって歌唱には、運動系と聴覚系の複数の連合野が関わっており、運動系の連合野では言語活動とは逆に右半球優位で、聴覚系の連合野では言語活動と同じく左半球優位で行われることが示唆された。 (2)絶対音感保持者と非保持者の大脳形態学的差異について 機能的核磁気共鳴画像(MRI)を用いて、絶対音感と呼ばれる特殊な音楽能力の保持者と非保持者との間に、大脳半球の一部(側頭平面の面積)に形態学的差異があるかどうかを調べた。絶対音感とは基準となる音高を参照せずに任意の音高を聞き分け、または歌い分ける能力である。その結果、近年なされた報告(Schlaug et al;Science 267;699-701,1995)とは異なり、絶対音感の保持者と非保持者との間に著明な差はないことが確認された。側頭平面は左半球の方が右半球よりも大きい傾向にあるが、その左右差の程度には絶対音感の保持者と非保持者との間で有意差はなく、絶対音感の有無と側頭平面の形態学的特徴に、近年報告されたような関連はないことが示唆された。
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