研究概要 |
1. 歌唱時の脳内活動について 本年度は新たに右利き健常人を12名対象として、歌唱時の脳内血流動態を機能的核磁気共鳴画像(機能的MRI)を用いて調べた。昨年よりもスキャン枚数を増して18枚とし、さらにSPM96で処理した。その結果、両側中前頭回後部、両側上側頭回後部、両側縁上回が賦活されることがわかった。これらの部位の左右大脳半球差に関しては、中前頭回後部および縁上回では右側が左側より広く賦活されていた。したがって、歌唱には、右半球が優位に関与していることが示唆された。 2. 絶対音感保持者と非保持者の大脳形態学的差異について 絶対音感と呼ばれる特殊な音楽能力の保持者と非保持者との間に、大脳半球の一部(側頭葉、および頭頂葉)に形態学的差異があるかどうかを、磁気共鳴画像(MRI)を用いて調べた。絶対音感とは、基準となる音高を参照せずに任意の音高を聞き分け、または歌い分ける能力である。さらに、音楽経験者と非経験者との間でも同様の差異があるかどうかを調べた。その結果、側頭葉後部については、近年なされた報告(Schlaug et al:Science267:699-701,1995)とは異なり、絶対音感の保持者と非保持者との間で、左右の面積差に有意差はないことが確認された。また、音楽経験者と非経験者との間にも有意差は観察されなかった。他方、頭頂葉前部については、絶対音感の保持者の方が非保持者よりも、左右面積差が有意に大きいことがわかった。また、音楽経験者と非経験者との間には有意差は見られなかった。以上の結果から、絶対音感の有無と頭頂葉前部の形態学的特徴に関連があることが示唆された。
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