1.歌唱時の脳内活動について 右利き健常人12名を対象として、歌唱時の脳内血流動態を機能的磁気共鳴画像(機能的MRI)を用いて調べた。歌唱時には、いずれも両側の、下前頭溝後部周辺、下前頭回弁蓋部、上側頭回、縁上回が賦活することがわかった。左右大脳半球差に関しては、縁上回のみが著明な右半球優位を示し、他の部位では明らかな左右半球差は観察されなかった。これらの結果により、歌唱には前頭葉の運動連合野と側頭葉の聴覚野が両側に関与し、頭頂葉の連合皮質が右半球優位で関わることが示唆された。 2.作曲時の脳内活動について 右利きで健常な音楽家12名を対象として、作曲活動時の脳内活動を、機能的MRIにより調べた。その結果、両側の下前頭回、中前頭回後部、帯状回、加えて左半球の上および下頭頂小葉に賦活が観察された。前頭葉および頭頂葉の賦活は左半球の賦活が右より著明に多く、作曲活動が左半球に強く関わることが示された。 3.絶対音感保持者と非保持者の大脳形態学的差異について 絶対音感は、基準音を参照することなしに任意の音高を同定または表出する能力である。この能力の有無と、大脳皮質の一部(側頭平面、および頭頂平面)の解剖学的左右差との関係を、磁気共鳴画像(MRI)を用いて調べた。その結果、側頭平面については、いずれの群でも左が右より同程度大きく、群間には有意差はなかった。他方、頭頂平面については、いずれの群でも右が左より大きい傾向があったが、絶対音感を保持する音楽経験者の方が、非保持の音楽経験者よりも、有意にその傾向が強かった。以上の結果から、右の頭頂平面が絶対音感に関与することが示唆された。
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