研究概要 |
本研究では、酸化数1や4の希な原子価のPd原子を含む有機パラジウム錯体を多数合成し、それらの分子構造、電子構造を解明するとともに、これらの構造に特徴的な変換反応を見出すことを目的とする。さらにこれら希原子価パラジウム錯体による有機小分子の選択的活性化反応を開発する。 1) Pd(IV)錯体を経由する変換反応 2位にクロロメチル基を持つπ-アリルPd(II)錯体[Pd(CH_2C(CH_2Cl)CH_2)(C_5H_5)]からPd(IV)メタラサイクル[Pd(CH_2C(=CH_2)CH_2)(C_5H_5)]^+が発生し炭素-炭素結合の形成を経て[Pd(CH_2C(CH_2C_5H_5)CH_2)(Cl)]が生成することが分かった。さらにC_5H_5以外の配位子でもPd(IV)発生を促進するかどうか検討したところ、チオラート誘導の変換が全く同じ反応パターンで進行し、[Pd(CH_2C(CH_2SR)CH_2)Cl]を与えることが判明した。 2) Pd(I)錯体の合成と構造 Pd(0)とPd(II)錯体をブタジエンを鋳型としてカップリングさせPd(I)-Pd(I)2核錯体を効率よく得る一般法を見出した。すなわちPd(II)上の配位子の種類(Cl,Br,PPh_3など)を変えたり1,3-ジエンの種類を変えたりして、アニオン性2核錯体[Pd_2X_3(diene)]、中性類似体[Pd_2X_2(PPh_3)(diene)]、カチオン性錯体[PdX(PPh_3)_2(diene)]^+を効率よく作り分けることに成功した。これらはいずれもs-トランスジエンの架橋配位構造を持つことがX線解析で分かった。さらにジエンには、アニオン性のジエノラート基も適用できることが判明した。またハロゲンを含まないビスジエン錯体[Pd_2(PPh_3)_2(diene)_2]^<2+>の構造を解析したところ、全く予期しないPd-Pd距離3.19Åを見出した。これは従来報告されているPd(I)-Pd(I)結合距離の範囲(〜2.83Å)をはるかに越えるものである。この異常性の原因を分子軌道計算で解析し、Pd-Pd結合電子からジエンLUMOへの逆供与が重要であることを確定した。この異常錯体は反応性も高く、アセトニトリルによる2つのジエンの追い出し反応や、アセチレンによる1分子のジエンの選択的置換反応などが起こることを見出した。
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