研究概要 |
本年度の研究対象は、昨年度同様、分子結晶への応力印加に伴う非品質化に伴う磁気的特性の変化と、配位子交換反応である。後者はさらに、無機塩と配位子との混合物への応力印加による錯体の固相合成、すなわち錯体結晶のメカノケミカル合成にまで発展した。 第一のジャンルでは、ピリジル骨格を有する鉄(II)錯体において、配位子と対イオンを系統的に変化させ、非晶質化と有効磁気モーメントの低温ジャンプ現象との関連を調べた。その結果、極性の大きなNCSを配位子または対イオンとして含む錯体にせん断応力を印加した場合は、有効磁気モーメントμ_<eff>が20K以下の低温で急激な増大(低温ジャンプ現象)を示したのに対して、球対称のPF_6を配位子に持つ錯体は、応力の履歴にかかわらず、μ_<eff>は緩やかな単調増加を示した。一方、第二のジャンルでは、2,2'-ビピリジン(bpy)鉄(II)錯体と1,10-フェナントロリン(phen)との混合物に非等方性応力を印加することによって、固相でも、溶液相反応と同様な配位子交換反応が起こることを確認した。一方、bpyを配位子とする場合には、固相の交換反応は起こらない。これは、運動の自由度の低い固相におけるbpyの異方性が交換反応を阻害するためと推測している。 さらに、FeSO_4・7H_2O、1,10-phenおよびKSCNから成る3成分混合物に非方性応力を印加することにより、Fe(phen)_2(NCS)_2の固相合成が可能であることを示した。 これらの成果は、1998年9月に高知で開催された第48回錯体討論会、1999年3月に横浜で開催された日本化学会第77春季年会などで発表した。
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