研究概要 |
本研究では,ヒトへの臓器提供動物として最適と考えられているミニブタの遺伝子組換え技術の改良,効率化をめざしている。ミニブタの遺伝子組換えは未だに成功していない。その一因として,専門の熟練技術者を必要とするマイクロインジェクション法に依らざるを得ない点がある。その結果,操作できる受精卵の数は多くなく,組換えDNA溶液の注入量にもバラツキが生じる。そこで,受精卵細胞膜および前核膜を貫通する際の微小ガラス針刺入抵抗が計測できれば,さほどの熟練者でなくとも注入DNA量を制御しつつマイクロインジェクション法を行うことができ,本法の効率化につながると考えられる。本研究目的は,触覚センサ(共振周波数測定センサ:接触した物体の硬さに比例して共振周波数が変化する現象を利用したセンサ)を用いて,細胞膜の刺入抵抗が計測できるかどうか検討することである。 本年度はマイクロインジェクション用ガラス針に接続可能な触覚センサを開発した。これを先端径約7μmのガラス針に接着し,ウシの未受精卵を用いて細胞膜刺入の際の共振周波数を測定した。細胞膜刺入操作に対応して急激な共振周波数の変化が認められた。この例の共振周波数の変化は約27Hzであり,細胞膜刺入抵抗計測が可能と考えられた。本法の目的は,組換えDNA注入用のマイクロインジェクション法の効率化および自動化であるが,針先が7μm程度のガラス針で充分な大きさの共振周波数変化が捉えられたので,核移植の際の刺入抵抗計測も可能と考えられ,核移植の効率化および自動化にも寄与するものと思われる。来年度は,針先が1-2μm程度のガラス針を用いて卵細胞膜刺入時の共振周波数を測定し,1)刺入抵抗として認識できるかどうか,2)受精卵と未受精卵で刺入抵抗に差があるかどうか,3)前核膜貫通時に共振周波数の変化が捉えられるかどうか,検討する。
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