研究概要 |
本研究は,高エネルギー重イオンのエネルギーを測定精度と核種弁別能を調べるために,光電離現象を利用した液体アルゴンカロリメータの性能を検証することを目的としている。 そのために光電離用のアレンを添加した液体アルゴンカロリメータの重イオンに対する応答を調べた。重イオンビームの照射は放医研HIMACで行った。カロリメータ電極は幾何学的精度を上げた薄いG10板を連ねる多重平行平板電離箱の構造とした。また粒子の通過位置を測定して散乱の影響を調べるために,電極の一部をストリップによる位置有感型とし,外部の位置有感型シリコン検出器とともに入射粒子の飛跡も測定した。 使用ビームは500〜650MeV/nのNe,Ar及びFeイオンで,ビーム強度は100〜200counts per spillである。電離箱では残留陽イオンの空間電荷のために信号が変化する。通常,HIMACビームのスピル内の時間構造は一様ではない。この構造をできるだけ一様にするとともに,入射粒子毎の時間間隔を記録して事象を選択することによりこの影響を最小限に押さえた。 アレン添加により,電子・イオン対の再結合が減るため,信号が大きくなりエネルギー損失の分解能も向上したが,まだ計算の期待値より悪い。この傾向は入射粒子の散乱方向を選択しても変わらず,散乱が主原因ではないことを示している。このことは液体の密度揺らぎなどの他の要因を考慮する必要性を示唆している。入射粒子の飛程に対応する電離箱セルとその一つ前のセルの信号との相関から入射粒子の元素弁別ははっきり可能であることがわかったが,同位体の弁別は微妙なところであり,今後の詳細な解析により明らかにする。
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