本年度の当該申請研究の実績は以下の2点に集約される。 1)ポア・システムの文化パターンの時間依存性を検討し、貝形虫のポア・システムの解析が系統関係推定の優れた基準となることを明らかにした。ポア・システムの文化順序からすでに相互の関係が推定されていたCythere属5種について、ミトコンドリアDNAのCOI領域686塩基対を用いてその類似度を検討した。これらは、北海道厚岸産Cythere schorinikovi、青森県浅虫産および宮城県女川産C.sanrikuensis、青森県浅虫産および石川県羽根産C.uranipponica、岡山県牛窓産C.nishinipponica、石川県見付島産C.japoniaである。その結果DNAからみた関係とポアからみた関係がすべて一致し、ポアシステムの解析が信頼性がさらに高まった。また、C.japonicaの成体のもつポア数は他のCythere属4種に比べ圧倒的に多数であるが、DNA分析の結果本種の置換速度が他のCythere属4種のそれよりも圧倒的に大きいことが判明し、何らかの関連性を示唆するものと推定した。 2)従来研究例のごく限られていた科間の系統関係の推定であるが、今回新に4科(Hemicytheridae科、Trachyleberididae科、Cytheruridae科、Paradoxostomatidae科)のポア・システムを調査し、既知の結果と併せて計8科間の関係を見積もった。この結果は基本的に従来の分類の枠を支持し、さらにこれを細分するものである。これらのことから、ポア・システムの文化順序が低次分類群間にも高次分類群間にも有効に利用できそうなことが推定された。 3)上記2)の結果の一部を雑誌「遺伝」に公表した。
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